父の手
父の手
夢から覚めると父の手が見える
二十年も前に作られた家の
私の部屋の天井の手の跡は
大工である父のふき忘れた手型
口うるさくなった父が
後でめだってくるからと
新しい部屋を残らずふかせたのは
一昨年の建て増しの折だが・・・
歳月とともに鮮明になっていく手
夢から覚めると
家をささえてきた父の手が見える
提箸宏詩集「風景画」1986年紙鳶社刊より
父は昭和4年7月3日生まれ、7月2日に子供夫婦、孫たち、ひ孫が集まり、米寿のお祝いをします。
父は、栃木県安蘇郡飛駒村(現在の佐野市飛駒町)で、7人兄弟の5番目、次男として生まれました。父親(私の祖父)が大工をしていたこともあり、大工として、高崎に出てきました。高崎では、大工の棟梁として居を構え、今も、その地に、妻と、私の弟である次男家族と生活しております。
成人になるころまで、よく父の手伝いをさせられました。柱同士を組みあげていくために、機械で柱に長方形の穴をあけたり、現場で指示に従って板を運んだり、・・・。だれでもできる簡単な作業を、自分であったり、母であったり、あるいは弟が手伝いました。
その手伝いの一つに、「とのこ」を塗るという作業がありました。柱や板のおもて面に「とのこ」という土のような粉を水で溶いたものをタオル等に含ませて塗る作業です。木材の表面にあるくぼみをふさぎ、木を滑らかにします。乾いたらそれを乾燥した布で拭き取り終了です。
家を建てる工程の中で、その「とのこ」を塗った木材に当然手が触れます。そして、その手の跡がついてしまうこともままあります。完成したところで、水拭きで、柱や板を丁寧に拭き取り、その汚れを取り除きます。
建ててから20年以上たった私のその部屋の天井には、いつからか手の跡が見えるようになりました。
弟の代になって家は建て替えられ、今は昔ですが・・・
2017.6.21